新型コロナのワクチンの効果と集団免疫の可能性【集団免疫ができず感染防止策はやめられないとしても、感染すれば発症していたはずの人のうち95%の発症が止まることで、医療崩壊を防ぐことができ、経済を回せる】
今回は、新型コロナのワクチンの効果と集団免疫の可能性について、いま(令和3年1月23日時点で)分かっていることを簡単にまとめる。
1 新型コロナのワクチンで集団免疫の効果が得られるかは分かっていない
まず、厚労省の新型コロナについての質問ページを見てみよう。
これによれば、ワクチンは病原体(ウイルス)に対する免疫(抵抗力)を付けたり、強くするために打つものだ。
そして、集団免疫とは、
ある病原体に対して、人口の一定割合以上の人が免疫を持つと、感染患者が出ても、他の人に感染しにくくなることで、感染症が流行しなくなり、間接的に免疫を持たない人も感染から守られます。この状態集団免疫と言
う、とされている。
であれば、ワクチンでみんながコロナの免疫を付け又は強化すれば、集団免疫が達成され、コロナの流行は収まっていくのだろうか。
しかし、次に大事なことが書かれている。
ワクチンによっては、接種で重症化を防ぐ効果があっても感染を防ぐ効果が乏しく、どれだけ多くの人に接種しても集団免疫の効果が得られないこともあります。
新型コロナワクチンによって、集団免疫の効果があるかどうかは分かっておらず、分かるまでには、時間を要すると考えられています。
つまり、コロナのワクチンは「感染を防ぐ効果」が十分にあるワクチンなのかどうかが、「集団免疫」を達成できるかどうかのポイントになりそうだ。
2 先行的な各種ワクチンの「有効率」とは
コロナのワクチンも様々に開発が進んでいる。その中には、日本国産のワクチンもあるが、いまだどこかの国で承認されたという報道はない。
先行しているのは、ロシアや中国のワクチンのほか、米国・ドイツや英国のワクチンである。
日本で供給される可能性が相当ありそうなのは、すでに供給契約を締結してある、米国ファイザー・ドイツビオンテック、米国モデルナ、英国アストラゼネカの各ワクチンだろう。
ファイザー等のワクチンの有効率は95%、モデルナは94.1%だったという。
これはしかし、「100人がワクチンを打ったら、95人はコロナに感染しなくなる」という意味ではないという。
例えば、ファイザーの臨床試験は、「4万3500人に参加してもらい、そのうち約半分(約2万1750人)にはワクチンを打ち、残りの約半分にはプラセボ(偽薬)を打ったあと、1か月追跡したところ、ワクチン群からは8人が新型コロナを発症したのに対し、プラセボ群からは162人が新型コロナを発症した」との結果から、「有効率は95%だ」となったのだという。
つまり、プラセボ群でも、約2万1588人は、コロナを発症していない。
そうすると、どういう意味で95%なのか、すぐには分かりにくいが、こういうことだ。
つまり、「ワクチン群は、プラセボ群の結果からすると162人が発症してもおかしくないのに、8人で済んだ。154人は発症せずに済んだ。発症するはずだった人のうち、発症せずに済んだ人は、162分の154、つまり95%にのぼる」
もっと簡単にいえば、発症率が95%減、ともいえそうだ。
こういう比較検討をして「有効率」を算出する方法は、インフルエンザワクチンでも行われているようだ。
厚労省HPのインフルエンザQ&Aのこの記事によると、同じような計算例が出ている。
Q21のこの一節だ。
6歳未満の小児を対象とした2015/16シーズンの研究では、発病防止に対するインフルエンザワクチンの有効率は60%と報告されています※2。「インフルエンザ発病防止に対するワクチン有効率が60%」とは、下記の状況が相当します。
・ワクチンを接種しなかった方100人のうち30人がインフルエンザを発病(発病率30%)
・ワクチンを接種した方200人のうち24人がインフルエンザを発病(発病率12%)
→ ワクチン有効率={(30-12)/30}×100=(1-0.4)×100=60%ワクチンを接種しなかった人の発病率(リスク)を基準とした場合、接種した人の発病率(リスク)が、「相対的に」60%減少しています。すなわち、ワクチンを接種せず発病した方のうち60%(上記の例では30人のうち18人)は、ワクチンを接種していれば発病を防ぐことができた、ということになります。
そして、目に付くのが、このインフルエンザに使われている「発病」という文言だ。
そういえば、コロナのワクチンについても、「発症」という文言が使われていて、「感染」であるとか「(PCR検査で)陽性確認」とかではない。
どういうことだろうかと思ったら、インフルエンザについては上記Q21にこういう記載もあった。
少し長いが、大事なことなので引用しておく。
インフルエンザにかかる時は、インフルエンザウイルスが口や鼻あるいは眼の粘膜から体の中に入ってくることから始まります。体の中に入ったウイルスは次に細胞に侵入して増殖します。この状態を「感染」といいますが、ワクチンはこれを完全に抑える働きはありません。
ウイルスが増えると、数日の潜伏期間を経て、発熱やのどの痛み等のインフルエンザの症状が出現します。この状態を「発病」といいます。インフルエンザワクチンには、この「発病」を抑える効果が一定程度認められていますが、麻しんや風しんワクチンで認められているような高い発病予防効果を期待することはできません。発病後、多くの方は1週間程度で回復しますが、中には肺炎や脳症等の重い合併症が現れ、入院治療を必要とする方や死亡される方もいます。これをインフルエンザの「重症化」といいます。特に基礎疾患のある方や高齢の方では重症化する可能性が高いと考えられています。インフルエンザワクチンの最も大きな効果は、「重症化」を予防することです。
要するに、
① ウイルスが口、鼻、眼の粘膜から体内に入る(そして細胞に侵入して増殖する)ことを「感染」という。(インフルエンザワクチンは、「感染」を完全に抑える働きはない。)
② ウイルスが増えて発熱等の症状が出た状態を「発病」という。(インフルエンザワクチンは、「発病」を抑える効果が一定程度ある。)
③ 発病後、肺炎等で入院治療となったり死亡したりすることを「重症化」という。(インフルエンザワクチンの最も大きな効果は、「重症化」の予防だ)
これを新型コロナのワクチンになぞらえると、やはり「発症」を問題にしているのだから、「感染」ではなく、上記②の「発病」と同じ文脈のものとみてよさそうだ。
そうすると、上記の「有効率」の報道の限りでは、①の「感染」を抑える働きの有無や程度は分からないし、③の「重症化」を抑える働きの有無や程度も分からないというしかないだろう。
(そういえば、新型コロナのワクチンの「有効率」の報道では、そもそも、ワクチン群とプラセボ群とで、それぞれ何人が新型コロナに「感染」したのかも明らかではなかった。)
3 「有効」の定義と新型コロナの特性から分かる集団免疫の可能性
新型コロナは、もともと、「感染」しても「発症」しない、いわゆる無症状感染者が多いことも分かっている。
無症状感染者がどの程度ウイルスをばらまいて感染させるのかは分かっていないが、昨今の若者への感染拡大防止の呼びかけや、飲食店でのマスクをしない飲食・会話の自粛要請は、無症状感染者によるウイルスのバラマキを警戒したものとみるのが合理的だろう。
とすれば、いかにワクチンが「有効」で、「発症」を抑えられても、やはり新型コロナの感染自体はうまく防止できず、「他の人に感染しにくくなることで、感染症が流行しなくな」るという集団免疫にはなりにくいかもしれないと考えられる。
4 新型コロナウイルスと私たちとの今後の関係性
そうすると、新型コロナウイルスとの今後の関係性は、例えば、
「マスクやソーシャルディスタンス、3密回避などの「感染」自体の防止策は、従前どおり続けていき、「感染」自体の拡大を抑える。それに加えて、もしコロナに感染したとしても軽症以上に発症することを防止するために、流行している株に対応できるワクチンを、効果の持続が期待できる期間ごとに打ち続ける」
というものになっていくと予想される。
少なくとも、コロナの高い感染力を前提にすると、「感染」自体の防止をしなければかなりの人数が「感染」をしてしまう。仮にワクチンで、感染者のうち「発症するはずだった人」の95%の発症を防げたとしても、なお5%は発症してしまうことになるので、感染者が不必要に増大すれば、その5%も相当数になってしまう。とすれば、「ワクチンをみんな打っているから感染防止策は不要」とはならないのではないかと思う。
ただし、感染者のうち「発症するはずだった人」の95%の発症を防げる効果は大きく、発症していれば入院するはずだった人が自宅療養やホテル療養で済むようになることで、次第に病院のコロナ病床に余裕が出てきて、医療崩壊を防げるということから、陽性患者自体は多くても経済は支障なく回せる、ということになる可能性がある。
もしかすると、政府が11月までの陽性患者数や重症者数を見て、もちろん冬に感染が拡大する可能性もある程度は視野に入れていたとしても、コロナ病床の拡大を推進していなかったのは、このようなワクチンから見込まれる効果をにらんでのものだったのかもしれない。その後、12月以降に感染が想定以上に拡大し、ワクチン導入前に当座の対応を迫られることになったのは周知のとおりだが。
今後、長期的にみて必要なことは、
「ワクチンを速やかに浸透させること、特に、発症したら重篤化するような人たちには必ず浸透させ、発症を抑えることで重篤化防止につなげること」
と、
「変異に対応できるワクチンの調整的変造には都度迅速に承認したり、あるいは一定範囲の変造可能性を含めて承認しておき、流行株へのワクチン対応を迅速に行えるようにすること」
などであろう。
もちろん、後行のワクチンから、「感染」自体を防止できる免疫を付けて集団免疫を実現できるものが生まれるのが一番だが。