刮目呂蒙のブログ

都内在住の30代男です。時事問題や生活改善情報から、自分の周りのことまで。たまに持病(潰瘍性大腸炎)のことも。

日本旅行業協会は東京オリンピックを国際交流再開の契機にと期待している

今回は、日本旅行業協会会長の2021年の年頭所感が興味深いので紹介する。なお、自民党の二階幹事長が会長なのは「全国旅行業協会」(ANTA)であり、日本旅行業協会」(JATA)ではないので注意だ。前者はより地域密着、後者はより全国・海外を志向するというような違いがあるという。とはいえ、業界としての利害は相当一致するところだろう。

なお、旅行業を営むならば、「全国旅行業協会」か「日本旅行業協会」のどちらかに加入しない限り、初期費用に当たる「営業保証金」として、協会加入の場合の「弁済業務保証金分担金」の5倍の額の寄託を要するという。そこで、創業資金を節約したい旅行業者はどちらかに加入するようだ。

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目次

1 官邸への働きかけによりGotoトラベル事業を勝ち取った旅行業協会

 緊急事態宣言の延長で苦しい旅行業界

本日(2月2日)、東京等を対象とした緊急事態宣言が3月7日まで延長された。

今日の東京の新規感染者は556人。先週火曜日から約半減であり、指標の一つである陽性率はステージ4からステージ3相当に下がっている。宣言の効果は出ているといえそうだが、医療提供体制は依然として逼迫しているという。医療提供体制がボトルネックなのは昨春から変わらないようだ。

宣言延長でダメージを受ける人たちとして、直接営業時間短縮を要請されている飲食店の声が多く報道されている。実際には、1日1店舗当たり6万円の給付では足りない、地代家賃の高い場所や中規模以上の飲食店が本当に苦しいところだろう。

が、宣言には不要不急の外出自粛の要請や、7割テレワークの推進なども伴っているから、鉄道などの陸運や旅客業などの空運、そして旅行業も苦しい時間が続いているはずだ。特に、旅行業にとっては、宣言の解除はGotoキャンペーンの再開と事実上セットにされていたようだから、人口の多い地域の宣言が延長されたショックはとても大きいのではないかと考えられる。

 Gotoトラベルの有無は旅行業界にとって死活問題

感染を拡大させたのではないかと批判の強いGotoキャンペーンだが、個人的には、イートとトラベルは別に考えたほうが丁寧だと思っている。マスクを外した飲食によって飛沫感染を直接引き起こしかねないイートと、その機会を増加させるかもしれないだけのトラベルとは質的に違うと思うからだ。

国民へのメッセージや報道に分かりやすさが求められるということから、Gotoイートと一緒くたにされてきた感があるが、旅行業者にとっては、売り上げが落ち込み、コロナ対応の経費が増加し、消費マインドが冷え込んでいる現状、カンフル剤になり得るGotoトラベルの有無は死活問題だろう。

そういった推測を裏付けるものがあった。

こちらの日本旅行業協会(JATA)会長の年頭所感である。

www.jata-net.or.jp

上記の推測を裏付けるものといえそうな箇所を引用する。

JATAは「企業存続のための支援、自粛の緩和、大規模な需要回復施策の実施」を官邸にお願いし、雇用調整助成金の特例措置と期間延長、Go Toトラベル事業の実施等に至りました。

 

需要回復施策を「官邸にお願いし」てGotoトラベルの実施に至ったというあたり、とても率直で分かりやすい文章だ。「企業存続のため」という部分からは、事態の深刻さと必死さが伝わってくる。

なお、私の探し方が悪いのかもしれないが、全国旅行業協会のHPには、二階会長の年頭所感は見当たらなかった。

 

2 五輪で世界の客を呼び込みたい旅行業協会

 外国人の日本旅行も旅行業協会の事業対象

上記のように率直な日本旅行業協会会長の年頭所感には、五輪についての興味深い記載もある。

国際交流の再開のためには、インバウンドとアウトバウンドの両輪の戦略が必要であり、一歩踏み出すためのJATAの役割を全うしなければなりません。

観光業界にいうアウトバウンドというのは、国内客の海外旅行需要のことだ。 

旅行業協会は、日本国内での旅行・観光だけでなく、外国人の日本旅行や、日本人の海外旅行をも事業の対象とし、戦略を練っていることが改めて分かる。考えてみれば当然だが。

 東京五輪での観客参加、そのための観光客の来日を想定

そしてここだ。

今年の夏には、東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会があり、200を超える国や地域の人々が日本を訪れます。単なる大型スポーツイベントのような位置付けではなく、旅行業界全体で国際交流再開のきっかけとなるように取り組んでいかなければなりません。 

おお。今年の夏にはオリンピックがあり、「200を超える国や地域の人々が日本を訪れます。」「旅行業界全体で国際交流再開のきっかけとなるように取り組んでいかなければなりません。」

そうか。日本旅行業協会会長は、東京五輪が完全な形で開催されることを前向きに想定し、その実現を期待し、旅行業界全体での取組をしようとしているのだ。

外国人の日本旅行も旅行業という事業の対象なのであり、東京五輪は本来、インバウンド需要が大きく盛り上がる好機のはずだった。五輪を見に日本に来る外国人は、日本企業の飛行機にも鉄道にも乗るし、そしてもちろん、日本のホテルや旅館などのどこかで宿泊するはず。そのつもりで、旅行業界・観光業界は、何年も前から準備にかかり、たくさんホテルも建てたし、旅館を改装したし、外国語の研修もしたし、ウェブサイトも作り直したし、ツアーも組んだし、人も増やしていたのだろう。

そのような旅行業の方々からすれば、五輪を中止するなどもってのほかだし、無観客やオンラインなどで開催するのも言語道断、意気消沈だろう。なんとかコロナを世界的に撲滅し、選手だけでなく観光客の行き来も低いハードルで可能になることを願っているのだろう。

そのために、昨年官邸にお願いしたように、今年もさまざまな取組をしていくのだろう。

なお、自民党の二階幹事長は、下記の報道のように、観客参加を希望し、無観客での開催に否定的な見解を示したとされている。

www.nikkei.com

 

ちなみに、視聴率を気にしてハイレベルな選手が十分な準備をして世界各国から派遣されるかどうかを主に気にしていると思われる放送事業者は、懸念の方向性が旅行業者とは少し違うはずで、互いに同床異夢かもしれない。

 

3 まとめ

現在、東京五輪については国民の多くが2021年の開催に悲観的なようであり、中止の決定の遅れによる経費の膨らみを避けるためとして、早期の中止決定が望ましいかのような議論も見かける。誰が中止や再延期を決めるかのチキンレースになっているのではないかというような見方もあるようだ。

夏の甲子園のように感染拡大期に流れる雰囲気の影響もありそうだが(春の感染拡大期に不開催が決定されたものの、結果的には開催可能だったという論調もある。)、ワクチンの承認や接種の世界的な進行具合、それに必ずしもアスリートを優先しない接種の優先順位設定などから、客観的に考えても心配される状況であるとはいえるだろう。

しかし、東京五輪を選手生活の大目標あるいは集大成として、自分に勝つか負けるかという限界のところで厳しいトレーニングを積んできた競技選手たちには、中止となるのは残酷というしかない。「希望」の持つ力を強く印象付けた池江璃花子選手のメッセージからも、こういったアスリートの考え方が読み取れる。私自身、潰瘍性大腸炎で入院闘病中だったので、この池江選手のメッセージには強く勇気づけられた。

www.jiji.com

また、選手だけでなく、開催を前提として多額の先行投資をしてきた経済界にとっても、中止や無観客での開催は著しい打撃になり得る。

経済効果を計算してペイするようなら、各国の代表選手にワクチンを打ってもらうための費用負担を日本が申し出るなどの対策もないではないだろうが、各国の代表選手団の派遣どころか、代表選手の選定のための国内大会の開催自体ができていない国もあるようで、完全な開催への道筋は険しい。もしかすると早期中止論者のいうように、サンクコスト(今までに掛けた費用)が一番安く済むという可能性だってある。

それでも、関係各位には、開催の当否を決断すべき時期までには、ありとあらゆる知恵を絞って、最も有意義かつ効果的な選択をしてもらいたいと思う。仮に、参加国や渡航可能国、渡航可能条件等を絞るなどして小規模にせよそれなりの競技レベルも経済効果も確保して開催するとなれば、世界平和の象徴とされつつ商業化の懸念を持たれてきた五輪の意義付けを積極的にし直すチャンスにもなるかもしれない。