刮目呂蒙のブログ

都内在住の30代男です。時事問題や生活改善情報から、自分の周りのことまで。たまに持病(潰瘍性大腸炎)のことも。

新型コロナ陽性者に関する積極的疫学調査の縮小の影響をどうみるか

報道によれば、東京都は1月22日、保健所の負担軽減と効率的な入院・療養先の調整のため、積極的疫学調査の縮小をする方針を保健所に通知したという。

最近の新規感染者の減少にはこれが寄与しているのかどうか。影響を考えてみる。

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目次

1 新方針:積極的疫学調査の重点化

新型コロナに関し、保健所が担う役割は膨大といわれる。

陽性者の入院や療養先の調整のほか、感染経路の聞き取りや濃厚接触者の聞き取りなども行う。感染経路の調査と濃厚接触者の調査は、今後の感染拡大を防止するための「積極的疫学調査」(感染症法15条)として行われてきた。

アプリ等の行動記録媒体を事実上強制的に携帯させられ、それによって自動的に経路調査が可能な諸外国とは違い、日本では陽性者の感染経路の調査のため、保健所職員が発症14日前からの行動(とりわけ直近1週間の行動)を細かく聞き取ることになっている。これは、感染源の推定、集団感染の実態把握のためだ。

それに、感染者の発症2日前からの濃厚接触者がいないかの聞き取り調査もする。これは、発見された陽性患者からの3次感染・4次感染を防ぐために、2次感染者の候補者(濃厚接触者)を特定し、隔離し、検査するためのものだ。

陽性者の近くにいた人が濃厚接触者に該当するか否かについては、感染者の行動ごとの周囲の状況なども確認し、例えばコンビニや飲食店などを利用していたならば、その際も含め常時マスクを着用していたかや、他人との接触の状況、接触に係る距離や時間等の確認もするという。当該陽性者の属する企業や学校とも適宜協力し、最終出勤日や、その感染者の行動範囲に係る消毒状況なども含めてする。

これらを感染者1人1人について行う。大変な作業だ。

保健所の積極的疫学調査についてはこのサイトが詳しい。

www.tna.or.jp

 

だが、感染経路の調査についていえば、最近は、感染経路不明者がおおむね半数以上になっているようだ。

また、濃厚接触者の調査については、例えば一般企業勤めの人が陽性確認された場合、その周囲の人が濃厚接触者に当たるかどうかの判定は、その企業でどのような感染対策を取っているかにもよるが、最近では常時マスクをし、周囲の人とは1~2m開けて座り、それより近い接触や対面での接遇には透明パーテーションをしているというような取り組みが広がっている。このような取り組みがあるときは、職場には濃厚接触者なしとされることも多いようだ。

そんな状況を受けてか、報道によると、厚労省は、令和2年11月、重症化リスクの高い集団などを優先して調査する考え方(積極的疫学調査の重点化)を示し、令和3年1月8日には、都道府県などの自治体に対し、その考え方を柔軟に検討するよう通知を出したらしい。

神奈川県は、令和2年11月には、疫学調査の重点化を各保健所の判断とすることを確認していたようだが、近時の感染拡大を受け、令和3年1月8日、神奈川県内全保健所で疫学調査の重点化を徹底することを確認していた。神奈川県によると、同日以後の積極的疫学調査の対象は、「高優先」を医療機関(特に高齢者が多い施設)、高齢者施設・福祉施設等とし、「中優先」を学校/幼稚園・保育園の教員等とした。

県内全保健所において「積極的疫学調査」の対象を絞ります - 神奈川県ホームページ

 

そして、報道によれば、東京都も、令和3年1月22日、積極的疫学調査の対象を、高齢者や基礎疾患のある感染者に加え、医療機関、高齢者施設、障害者施設などに重点を置いて感染経路や濃厚接触者を調査する方針を保健所に通知したという。1月以降、保健所の現場はすでに全感染者の積極的疫学調査には到底手が回らなくなっており、事実上優先順位を付けて行っていたようで、これを正式に追認した格好にも見える。

 

2 具体的にはどうなりそうか

例えば、ある感染者がPCR検査陽性と確認されたとして、保健所は、その感染者と連絡を取り、感染状況などを聞き取る。

感染経路については、その感染者の感染確認14日前までの間に、医療機関や、高齢者施設・障害者施設を訪れたことがあれば、その際の行動を細かく聞き取るが、それ以外は特に聞かない。

濃厚接触者については、その感染者が医療機関や、高齢者施設・障害者施設の関係者であったり、発症2日前にそれらを訪れたりしていれば、さらに濃厚接触者の調査をする。また、それ以外の場所でも、高齢者や、知る限りで基礎疾患持ちの人と接触したことがあるかどうか確認し、あるようならその接触状況を聞き取る。さらに必要に応じて、その感染者による接触感染の有無についても、高齢者や基礎疾患持ちの人への感染可能性があれば聞き取る、といった感じであろうか。

変わる点としては、感染経路調査については、飲食店その他の類型的な飛沫感染の危険性のある行動履歴や、職場、その他一般施設に関する行動履歴などが調査対象外になるし、濃厚接触者調査についても、職場、飲食店、スポーツジムなどの行動に係る接触者などが調査対象外になると思われる。

特に今後の陽性者の数に影響を及ぼしそうなのが、発症2日前の行動履歴調査の大幅な省略による「濃厚接触者」=PCR検査受診者の減少であろう。

今まで、全新規陽性者のうち、このような濃厚接触由来の陽性者がどの程度の割合でいたのかは明らかになっていないと思う。

これが多かったのであれば、今回の積極的疫学調査縮小の新方針によって、PCR検査による新規陽性者数は大幅に減少する。逆に、もともと少なかったのであれば、この新方針にかかわらず、新規陽性者数はさほど変わらないことになる。

新方針の影響の有無を測る上でヒントになりそうなのは、①PCR検査数の動向と、②全新規陽性者数のうちの若年感染者の割合と、③無症状感染者の割合の変動であろう。

この新方針により、濃厚接触者認定される人が若年層を中心に減って、PCR検査数が減ると思われる。もっとも、この新方針によって生命を落とす人を増やさないよう、発症リスクの高い濃厚接触者は引き続き見逃さないように調査されるはずだし、すでに疑わしい症状が発症している人についてはPCR検査を受診できるはずだからだ。発症リスクが高いのは高齢者や基礎疾患持ちの人であり、非高齢者の中で基礎疾患持ちの人の割合は、単純に考えて、20代より50代のほうが多いはずだ。

そうすると、新方針になってから、PCR検査数が減少する一方、全新規陽性者のうち、若年感染者の割合が顕著に減少していたり、無症状感染者の割合が顕著に減少していたりすれば、それは新方針の影響により見逃されている新規陽性者が相当数いることが推定されそうだ。もちろん、午後8時以降の外出自粛要請により、若年層が強く行動変容を起こした可能性もあるが。

一方、濃厚接触者とされる人が減ってPCR検査数が減少するのに従い、陽性率は下がらないか、むしろ上昇することも予想される。これは若年・無症状感染者が見逃されるリスクとともに、新方針の副作用であろう。

 

3 神奈川県と東京都の新方針採用後の動向はどうか

神奈川県は、1月8日以前と以降とで直接比較するのがかなり難しい。1月8日以前は条件的に特殊な時期である年末年始を挟むためだ。

そこで、疑似的に1月3~9日と、それ以降とで比較すると、

PCR検査数をみると、同条件である火曜日~日曜日でみた場合(1/11(月)は祝日なので比較対象から除外する)、目立った差はない。

②新規陽性者数のうち若年層の割合と、③無症状感染者の割合は、公式発表された数字がなさそうだ。

新型コロナウイルスに感染した患者の発生状況 - 神奈川県ホームページ

新型コロナウイルス感染症 モニタリング状況 - 神奈川県ホームページ

 

東京都は、1月22日以前と以降とではまだサンプルが少ない。

PCR検査数は減っているようにみえるが、まだ何とも言い難い。東京都の参考指標をみると、発熱等による相談件数自体が減っているようであり、新方針の影響があるとはいいにくいのではないかと思われる。

②③も今後のデータ次第だろう。