刮目呂蒙のブログ

都内在住の30代男です。時事問題や生活改善情報から、自分の周りのことまで。たまに持病(潰瘍性大腸炎)のことも。

モノに触れてコロナに感染すること(接触感染)にも警戒すべき【実は秋から分科会の指摘があった】

 飲食店の感染拡大リスクが強調されがちな現在。2回目の緊急事態宣言で、飲食店への1店舗ごと1日6万円の保証とともに、飲食店の午後8時以降の営業自粛要請がされた。

 それにしても、最近は飲食店の飛沫感染リスクのほかは、以前はGOTOキャンペーンの拡大もあって否定的に言われていた「人の移動」の持つ感染症学上の基本的リスクが再度強調されるだけで、それ以外の感染方法つまり接触感染についてはあまり言及されなくなっている気がする。

 そこで、改めて、接触感染についての議論の状況をまとめてみたい。

 目次

 

1 共用蛇口での接触感染事例

 最近発生した、都営大江戸線運転士の2割に当たる38人が新型コロナに感染した事例。

 読売新聞の独自取材記事で極めて重要な指摘があったので最初に紹介しておく。

www.yomiuri.co.jp

特に重要と考える部分を以下に引用する。

都交通局などによると、38人はいずれも江東区内の庁舎で始発などに備え、宿直していた。寝室は個室で、リネン類も毎日交換されていたが、洗面所や浴室、台所は共用で、同時に複数人が利用することもあった。

 12月の保健所の現地調査で、感染を広げたと推定されたのは洗面所の蛇口だった。手で回して水を出すタイプで、歯磨きの際に唾液が付着した手で触れるなどし、ウイルスが付着した可能性が高いと指摘された。

要するに「洗面所の蛇口に、歯磨きで唾液が付着した手で触れて、ウイルスが付着した」、それを共用していたメンバーが触って感染が拡大したという。

 飛沫感染ではなく、接触感染である。

 そう、飲食店での飛沫感染にばかり意識が行きがちだが、接触感染への警戒も大事なのだ。

 

2 冬こそ気を付けたい接触感染

 一般に、冬には感染症が流行しやすいといわれている。

 新型コロナについても、最近の急速な感染拡大を受けて、冬に感染拡大する事態は以前から想定しておくべきだったのだという論調が多く、政府の対応の遅さを批判する論拠となっている。

 確かに、白鴎大学の岡田晴恵教授などはずっと冬季の感染拡大を警告されていた印象だが、春の第1波や夏の第2波ころまでは、気温が高い地域でも感染拡大しているじゃないか、コロナは例外で気温には関係ないのではないか、という議論も多かったと思う。

 いずれにしても印象論や一般論で語るのはよくない。できるだけファクトベースで議論したいところだ。

 そうしてみると、

 ①気温が低く、空気が乾燥すると、新型コロナウイルスが感染力をもつ時間が、より長くなること

 ②寒くて乾燥すると、ウイルスに対する私たちの防御能力が弱くなること

 がこの記事から読み取れる。

www.nhk.or.jp

 また、気温が低くなるほど、物の表面でコロナが生存し続けることが、この記事から読み取れる。

www.bloomberg.co.jp

 詳しくは各記事に飛んで当たってほしい。

 これらの記事を読んでも、新型コロナが「警戒すべきような感染力を持った状態」で、ステンレスやガラス、紙幣などの生活上頻回に触れる物質に、何時間、あるいは何日生存するのかなどの詳細は不明だ。

 しかし、上の記事が感染症専門医の警告であること、下の記事がオーストリアの疾病予防当局の警告であることをも踏まえれば、気にしなくてよい程度の差だと決めつける訳にもいかないだろう。少なくとも夏よりも冬のほうが、モノに付着したウイルスを触ることによる接触感染への警戒を高めるべきだと考えられる。

 そして、このような接触感染への警戒の必要性は、実は昨秋には、政府の分科会によって周知が試みられていた。

 

3 分科会「7つの場面」のヒアリング調査

7つの場面

 政府の分科会が、クラスター事例の分析に基づいて昨年9月25日までにまとめていた、三密の概念をさらに咀嚼して日常生活の場面に具体化するための「7つの場面」がこちら。

 ① 飲酒を伴う懇親会
 ② 大人数や深夜におよぶ飲食
 ③ 大人数やマスクなしでの会話
 ④ 仕事後や休憩時間
 ⑤ 集団生活
 ⑥ 激しい呼吸を伴う運動
 ⑦ 屋外での活動の前後

 これらは、時期的にみて、いわゆる夏の第2波までのクラスター事例の分析に基づいてまとめられたものだと考えてよさそうだ。

 そして、この「7つの場面」をさらに日常生活に落とし込むために、12の自治体の保健当局等に、現場感覚との擦り合わせなどのためのヒアリング調査をした結果が公開されている。

「【参考資料1①】1023分科会資料3-2クラスター分析(概要)」という資料である。

 これによると、「7つの場面」は現場感覚にも合致し、概ね妥当で網羅性があるそうだ。それにしても、マスクをしないで飛沫を飛ばしたことによる感染例の記載が多い。やはりそれが最大のリスクであることは疑いないようだ。

 ただし、接触感染に関する記載もある。これを埋もれさせないように、適宜抜粋してみる。

接触感染についてのヒアリング記載の抜粋(太字処理は筆者)

・ 箸やスプーン等の共有をやめさせることが必要と考えられた。
・ 飲食以外の時間(トイレ、会計等)にも感染リスクがあることを認識することが必要と考えられた。

・ 発症者とスプーンを共用していた。
・ 大皿料理を共有していた。
・不十分な換気、三密、大きな声(歌唱)、長時間滞在、マスク不着用、共用設備の消毒が不十分だったことがクラスター発生につながった。

・ スクリーン設置、マイクを毎回消毒、頻繁な換気といった感染予防策をしている店舗では、感染者が少ないと考えられた。

共用施設や喫煙室において、昼食休憩時に感染が拡大したと考えられた。
飛沫感染やマイクロ飛沫感染ではなく、電話・インカムの共有という接触感染が原因と考えられる事例もあった。

共用設備の清掃・消毒の徹底が必要と考えられた。
・ 教師と生徒が体育の授業で身体的に接触した。

・ ハーフタイムや給水時におけるマスクを外しての会話や、水で体を冷やす給水スポンジを共用することなどにより、感染が拡大した可能性があった。

・ 当該スポーツ団体の業種別ガイドラインが守られておらず、トングの共有などがあった。
・ シャワー等の施設を共有していた。

リハビリテーションを行う職員が利用者一人ごとに手袋を変えていなかった。

・ 消化器症状を有する患者が利用した外来のトイレ接触感染したと考えられる事例があった。

 接触感染に関するキーワードは、「共有」・「共用」、そして「消毒」だと考えていいだろう。

 また、「7つの場面」についての保健当局側からの意見として、次のような指摘があるのが興味深い。

・場面や場所の切り替えの時には感染リスクが高くなることや、(中略)共用の物品や共用設備が感染要因となっていることなど、補足説明等を行うべき(以下略)…。

場所に焦点が当たりすぎない方がよいと考えられた。

飛沫感染やマイクロ飛沫感染に対する注意喚起に比して接触感染に対する注意喚起が少ないとの指摘や唾液で感染することを強調すべきこと(中略)などの指摘があった。

 実際の事例に当たってきた保健当局担当者の現場感覚でも、接触感染の事例の多さに比して注意喚起が少ないことへの懸念が示されていたわけである。

有用な分科会の資料が活用できていない懸念

 なお、この分科会の資料は、接触感染に関する分析以外にも有用である。

 例えば、カラオケで感染を少なくするコツのようなことも書いてある(「感染が広がらなかった小規模店舗では利用客の多くがマスクを着用していた。歌唱者を含む利用客のマスク着用が有用と考えられた。」)。

 飲食店でも感染拡大しにくい事例の指摘もある(「業界別ガイドラインを遵守していた店舗では、従業員は感染したもの、利用客(100 名超)には感染しなかった。
・ 例えば、オーセンティックバーなどにおいて一人で静かに飲酒をする場合に
は感染リスクが低いと考えられた。」)

 いまの飲食店一律の午後8時以降の営業自粛要請は、せっかくのこのような分析結果を十分に活用できていないともいえる。そうなった原因は、政府の伝え方にあるかもしれないし、マスコミの報道の仕方にもあるかもしれないし、受け手の姿勢やリテラシーの問題もあるかもしれない。

 そもそも、単純でない情報を、どうやって、聞く気が薄い人にも伝えられるかというと、大変難しい問題だ。伝える側は、限られた情報伝達の場面で、聞く側の理解度や媒体の反応の仕方を想定して、どのように伝えるか考えなければならない。ともすれば、誰にとっても不十分な発信に見えることもあるだろう。

 

4 まとめ

 他人が触る部分に自分が触るときは注意しよう。

 冬の低温・乾燥の環境では、コロナウイルスが感染力を維持したまま、比較的長期間、モノの表面に生き残りやすい。

 夏までのクラスター事例の分析でも、消毒不足の共用部分への接触が原因で、感染が拡大した事例があることが報告されているのに、接触感染への注意喚起が少ない状況にある。

 そして実際に、大江戸線の事例など、冬の接触感染によるクラスター事例が発生している。

 これらを踏まえれば、接触感染への警戒も高めておくに越したことはない。

 ついでに指摘すれば、ウイルスが手に付いたとしても、それを体内に入れなければ感染が防止できる可能性がある。無意識に目や鼻や口などの粘膜に触りがちな私達だが、コロナ禍の現状では意識して触らないように努め、かつ、頻繁に手を消毒しておくことだ。