刮目呂蒙のブログ

都内在住の30代男です。時事問題や生活改善情報から、自分の周りのことまで。たまに持病(潰瘍性大腸炎)のことも。

コロナ変異種の検出状況【そもそも検出の対象は全体の1割にすぎない】

 新型コロナのニュースを見ていて、情報がぶつ切り・小出しにされて報道されていることが気になる人は私だけではないだろう。

 さすがに「〇日ぶりに2000人を切った」などという報道には意味がなく、「〇曜日としては最多」などというように、より実質的な情報も出るようになってきたが、それでも、陽性率の数値がなかったり、国の基準で見た東京都の重症患者数がなかったりすることには多くの人が気付いていると思う。

 また、最近の感染者数の爆発は本当に飲食店ばかりの問題なのか気になるのに、その点について何の言及もないことに気をもんでいる人も多いだろう。他にも、例えば不織布マスクでも20%の飛沫は飛ばしているというのだから、マスクをしても会話はしないほうがいいのではないか、などと考えている人も中にはいるだろうが、そういった問題に実質的に言及された報道はほぼ皆無と言っていい。

 私は今回、コロナ変異種の検出数についても、同様の感想を抱いたので、調べてみた。

 

目次

1 感染力が警戒されるコロナ変異種

 1月10日、国立感染症研究所が、新型コロナウイルスの新規変異種を検出したと発表。1月2日にブラジル北西部から到着した渡航者4人からだという。

 変異種といえば、感染力が強いとされるイギリスや南アフリカのものが有名。

 英国のものは感染力が従来型と比べて最大1.7倍との報道もある。

 今回日本で発見された変異種は、このイギリスや南アフリカのものと同じ特徴を持っているとのこと。

 感染力が強いものがまた入ってきたと、巷では水際対策の不徹底を嘆く声も聞かれる。

 

 だがちょっと待ってほしい。

 そもそも、コロナ陽性例のうちどの程度、変異種かどうかの確認をしているのだろうか

f:id:katsumokuRyomou:20210113204112j:plain

2 陽性者のコロナウイルスは、全件、変異種かどうかを確認されているのか?

 先に結論を言うと、どうやら変異種かどうかの確認つまり「ウイルスの遺伝子解析」をしているのは、「国内症例全体のおよそ一割程度」だそうだ。

 令和2年12月31日現在で、国内のゲノム確定数が14,711検体、空港検疫のゲノム確定数507 検体。

(以上は、国立感染症研究所のHP中の

感染性の増加が懸念されるSARS-CoV-2新規変異株について (第4報)

から抜粋している。)

 

 他方、厚労省によると、令和2年12月31日現在の「国内事例」の陽性者数は228,418人、「国内事例」とは別の空港検疫からの陽性者数は1,871人だという。

(以上は、厚労省のHP中の

新型コロナウイルス感染症の現在の状況と厚生労働省の対応について(令和2年12月31日版)

から抜粋している。)

 遺伝子解析の開始からゲノム確定まで何らかのタイムラグがあるとしても、どう計算したらおよそ一割程度になるのかは不明確だが、いずれにしても言えそうなのは、

 ”PCR検査で陽性が確認された人のうちおよそ1割程度しか、それが変異種なのかどうかの確認をされていない”

ということである。

f:id:katsumokuRyomou:20210113203702j:plain

 空港検疫については、単純計算して約27%(≒507÷1871)の陽性者について遺伝子解析に回されており、国内事例に比べて高いところは防疫への意識を感じるが、これも約7割はいわば「スルー」されているようにみえる。

 

3 変異種を正しく恐れるために

 国立感染症研究所HPの上記記事

感染性の増加が懸念されるSARS-CoV-2新規変異株について (第4報)

に戻ると、

「日本における迅速リスク評価」の欄に、


  「国内では、変異株は、海外渡航歴のある症例またはその接触者からのみ検出されている。しかし、これは国内に変異株が存在していないことを保証するものではない。」

 

 という文言がある。

 「症例全体の一割程度を調べた結果」としての評価しかできない立場としては、このような記載になるのは当然であろう。

 では、症例全体の一割程度を調べていることで、統計的には症例全体の傾向を示しているといえるのかというと、そう単純でもなさそうだ。

 私の調べが甘いだけかもしれないが、「どのような症例が遺伝子解析に回されるのか」の基準はよく分からなかった。つまり、統計的利用を意図したランダム抽出なのか、渡航先や症状の重さなどの個々の状況を踏まえた選別があるのか、あるいは地域的に感染研に近いところに限られるのか、自治体や病院の体制次第なのか、それ以外なのか、不明ということだ。

 ランダム抽出なのか明確でない以上、一割程度の調査で全体の傾向が有意に把握できるかどうかは不明だというほかない。感染研がこの点に言及せず、かえって「国内に変異株が存在していないことを保証するものではない。」と念押ししているのも、この一割程度の調査では症例全体について統計学的な裏付けを持って言えることがないからではないかと推測される。

  この点は、誰かファクトとして知っている人がいるなら、是非教えてほしいところである。

 いずれにしても、言えそうなことは、変異種がすでに「およそ1割」(空港検疫でも3割)の網をかいくぐってすでに国内に広がりつつある可能性もあるし、そうでない可能性もある。そして、それ以上は分からないということだ。

 

 なお、示唆的なのは、上記記事

感染性の増加が懸念されるSARS-CoV-2新規変異株について (第4報)

に、次のような記載があることだ。少し長めに引用するので引用部分を明確に区分する。

~~~~以下引用~~~~

・日本の対応についての国立感染症研究所からの推奨
 ・変異株の監視体制の強化
  ・特に、最近2週間の海外渡航歴ありの者に対するPCR検査等の実施、検体提出、ゲノム分析の実施。
<監視体制の優先順位の考え方>
 変異株が検出されていないことは、当該地域内に変異株が存在しないことを保証するものではないが、検体提出、ゲノム分析を行う対象となる者の2週間以内の海外渡航先については、下記の優先順位を考慮する。
  ・感染拡大とVOC-202012/01または501Y.V2の増加に関連性が認められる国・地域 (英国、南アフリカ

(以下略)

~~~~引用終わり~~~~

 「推奨」とあるとおり、この内容は今後の提案であり、現在行っていることではない。

 すなわち、「今後は、英国や南アフリカ帰りなど優先順位の高い人たちについてのPCR検査陽性例は、優先して検体検出、ゲノム分析(遺伝子解析)に回しましょう」

ということのようだ。

 

 今まではそれもやっていなかったのかと呆れる人もいるかもしれないが、コストやマンパワーなどの問題でそもそも一部の検体しか遺伝子解析に回せないとすれば、その一部で何を目指すべきかは状況によって異なる。

 先述したようにランダムサンプリングをして症例全体の傾向把握に努めるのも一つだが、今後は、検体検出等について優先順位を付けていくという。

 国立感染症研究所の所長は政府の分科会の会長代理である脇田隆字さんだから、さすがにこの方針は政府に共有される可能性が高いといってよいと思う。

 あとは優先順位付けによって高順位の検体が全体の何割程度遺伝子解析に回されるのかに注目したい。

 f:id:katsumokuRyomou:20210113204207j:plain

 さて、今後は、このような優先順位付けが時系列的に更新され、警戒すべき地域からの渡航者についてはかなりの割合で遺伝子解析が行われる結果、変異種確認の報道は増加していくことも予想される。

 しかし、そのような報道に対しては、もちろん国内で変異種が蔓延してきたということそのものである可能性もあるが、そもそも変異種は「およそ1割」の網をかいくぐっていたかもしれないし、遺伝子解析の方針が変わって検出しやすくなったからかもしれないと思いを致すことで、多少なりとも冷静になることができるだろう。