刮目呂蒙のブログ

都内在住の30代男です。時事問題や生活改善情報から、自分の周りのことまで。たまに持病(潰瘍性大腸炎)のことも。

【18歳成人】少年法の改正【来年4月から】

こんにちは呂蒙です。今回は法改正の話を紹介します。

f:id:katsumokuRyomou:20210210232649p:plain

昨秋ころに少年法の改正が報道されました。他には、大きいところでは民事訴訟法の改正も進んでいるみたいですね。それはまた別途取り上げられればと思います。

少年法の改正

少年法の改正は、簡単にいうと民法で令和4年(2022年)4月から成人年齢が18歳になることから、いまは20歳未満とされている少年法の適用年齢(「少年」の年齢)も17歳未満にするかどうか、18歳以上は大人と同じ手続でいいのかどうかが焦点となっていました。

少年法を適用する場合は、匿名・非公開で、家庭裁判所調査官に犯行の動機や背景にある生活状況等の調査を受け、さらに必要であれば少年鑑別所に送られて専門家の鑑別を受け、それに基づいて家庭裁判所の審判で保護処分(保護観察や少年院送致など)を受けるというのが基本になります。

これに対し、適用しない場合は、大人と同じように刑事手続になり、地方裁判所などに起訴されて公開の法廷で裁判を受け、有罪になれば懲役・禁錮・罰金などの刑罰が下されることになります(もっとも、刑の執行が猶予されたり、さらに猶予期間中保護観察になったりもします。)。

産経新聞などの報道では、成人になる18歳以上になれば普通の刑事手続で罰を受けるのが当然だろうという論調だったかと思います。

一方、少年犯罪にかかわる弁護士グループや、家庭裁判所調査官OBのグループなどは、18歳、19歳の人にも引き続き少年法を適用していくべきだという主張が多かったようです。その根拠は大きく2つあるようです。

1つは、18歳、19歳の子も、特に少年犯罪を起こすような子は精神的にも未成熟で生活環境もよくないところ、しっかり心理的動機や社会環境の調査をし、本人や家庭の問題を解明して周囲の資源を有効活用し、更生への環境を整えてあげれば、大きく変われる可能性(可塑性)も秘めており、実際にこれまでの実績としても更生・社会復帰の支援につながっているということ。

もう1つは、刑事手続に乗せることが必ずしも厳罰化にはならないということ。つまり、18歳や19歳で、生活環境的には根深いけれどもそんなに重くない犯罪を犯した場合(特に初犯の場合)、少年法であれば必要に応じて長期にわたる保護観察などもできるけど、刑事訴訟法だと検察官が不起訴にする可能性が相当あって、かえってあまりフォローもないし、本人にとって負担となる面倒事も少ないということのようです。

 ※検察官が不起訴にした人の福祉的支援として、更生保護施設等に繋げるなどの場合もあるようです。

www.moj.go.jp

どちらが正しいのかはなんともいえないところですが、下記の報道によると、「折衷案」とありますが、基本的には18歳、19歳にも少年法的な手続を引き続き用意するということで落ち着いたようですね。

www.nikkei.com

改正の要諦

 ①18歳、19歳の子たち(呼称は未定のようです)も、犯罪を犯したら原則として全件家庭裁判所に送致

 「ぐ犯」つまり犯罪は犯していないけれども、素行的に今後の犯罪のおそれが非常に心配される子たちについては、18歳以上の場合、今後は家庭裁判所の事件にならないということで、ここは保護の対象が縮小したようです。民法的には成人になる人たちについて、犯罪はしていないけど素行が悪いというものまで国が保護矯正しようとするのかというあたりが引っ掛かったのかもしれないですね。

 ②18歳、19歳の子たちの犯罪事件について、原則として検察官に送致(逆送)する類型を拡大

 現行法は逆送の対象を殺人罪傷害致死罪など故意に人を死亡させた場合に限っていましたが、罰則が短期1年以上の懲役又は禁錮にあたる罪に広げるとのこと。これによって、強盗罪や強制性交罪などが原則逆送事件に加わります。

 強盗罪というと、例えば、自転車のひったくりをしようとして荷物を引っ張ったら被害者が転んで擦り傷を負ったとか、安い商品を万引きをしたところ被害者や第三者から捕まえられそうになり、とっさに逃げようと体をよじったら相手を倒して軽い怪我を負わせてしまった事件なども、理論的には強盗(事後強盗)になりますが、そういうものまで逆送になると少年の保護を薄くしないか心配だという意見が出ているようです。例外の運用は家庭裁判所に任されているので、立法者が心配なら、どういう場合が例外に当たるのかを立法過程で審議しておくといいのかもしれませんね。

 ③将来の社会復帰を妨げないように本名や顔写真などの報道を禁じる規定も見直し、18、19歳は起訴(略式を除く)された段階で解禁

 現行法は、少年(20歳未満)の時に犯した犯罪については、少年審判はもちろん、逮捕などで事件になったのが20歳以上になった後である場合や、家裁の手続中に年齢が20歳を超えた場合や、逆送されるなどして、その後刑事裁判手続になっても、本名や顔写真など少年を推知させる報道を禁止する規定がありました。それが今後は、18歳、19歳で犯した犯罪についてその後(逆送されるなどして)刑事手続となって起訴された場合には、その段階で、現在の成人と同様に、本名や顔写真などが報道されるようです。

 ただ、起訴された後の刑事裁判でも、「やっぱり家庭裁判所少年法に基づく保護処分を受けさせたほうがいい」と判断された場合には、家庭裁判所に再送致される余地があります。その場合、すでに本名や顔写真などが報道されていることが更生の妨げにならないか心配という意見が出ているようです。難しいところですね。そういうふうにならないように、最初に事件の全件送致を受ける家庭裁判所が、逆送相当なのかしっかり検討しないといけないということでしょう。

改正の下案を作った人

今回の改正は、中央大学の佐伯仁志教授らの検討チームで下案が検討されたようです。

佐伯教授といえば東京大学の刑法の先生だと思っていましたが、もう定年退官されて、2020年4月から中央大学の先生になっておられたんですね。

私が大学生の時は、まだ東大の若手の先生というイメージでした。法学部だったので、刑法の勉強で論文を拝読したりしていました。「刑法総論の考え方・楽しみ方」だったかな。懐かしいですね。

すごくバランス感覚のいい先生という印象でしたので、今回の少年法改正の「折衷案」も、3年半かかったということですが、お人柄でまとめ上げられたのかもしれません。佐伯先生のご検討なら、基本的に大丈夫だろうという印象があります。すごいことです。