刮目呂蒙のブログ

都内在住の30代男です。時事問題や生活改善情報から、自分の周りのことまで。たまに持病(潰瘍性大腸炎)のことも。

弁護士成年後見人信用保証制度ができた

今回は、弁護士が成年後見人として故意に横領などで財産損害を与えた場合に保証される制度ができたということを紹介したい。

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ところで、上記のイラストは、いらすとやさんの「財産管理をする成年後見人(親族後見人)」というものだ。相変わらずいらすとやさんの話題カバー率には舌を巻く。

今日をもって9年間の定期更新を停止するという。ゆっくり休養してほしいところだ。

nlab.itmedia.co.jp

目次

1 利用しにくい?成年後見制度

判断能力が常時欠けるようになった人(認知症が進んでしまった人や、重度の知的障害がある人など)が契約などの意思決定をしたいとき、利用するのが成年後見制度だ。

利用しにくいという声も聞かれるが、その声の多くは、認知症等になった本人ではなく親族の声だろう。なぜなら、本人はそういう声を発することができないくらいに能力を失っていることが多い。それに、能力を失う前に信託や任意後見制度で備えているなら、そういう声は出てきにくいからだ。

成年後見制度において、認知症になった本人の意思・身上に配慮して、本人のために契約などを代理し、財産を管理するのが成年後見人だ。

成年後見人は、本人のためにその財産を使う。本人のためとしてお金を支出していいかどうか迷ったら、後見監督人や家庭裁判所に聞いて、ダメかどうかを確認する。その文脈の中で、親族の希望と合致したら、親族の希望する方向でお金を使うこともある。そういう制度なので、親族からすれば、成年後見人がつくと、本人のお金を左右するのに高いハードルができたように見えるのだ。民法個人主義だから、親のお金は親のお金、それは分かる。分かるけれども、今までの経過からすれば、本人の気持ちが確認できればすぐ希望どおりお金を使えるはずのに、成年後見人が付いたら使えなくなると。なんなら、確認などしなくても、本人が反対するはずがないのだから、お金を使えるはずなのに、その邪魔になる、と。

そんな気持ちからか、成年後見制度は利用しにくいという声も聞かれるようだ。

 

2 弁護士や司法書士等の専門職が成年後見人になることが多い

そういう親族にとっては、成年後見人に誰がなるかというのは強い関心事だ。親族自身や、自分と仲のいい親族が成年後見人になれれば、家庭裁判所からの監督は受けるにせよ、本人のお金を自分の管理下における。

しかし、最近は、弁護士や司法書士などのいわゆる専門職が、成年後見人になることが増えている。専門職が成年後見人になれば、本人のお金は専門職の管理下に置かれる。それは家庭裁判所がその必要があると判断したのだから、仕方ないのだが、本人のお金を家族で管理することはできなくなる。

また、専門職が成年後見人になれば、無料ではやってくれない。専門職は家庭裁判所に1年ごとに報酬を請求し、家庭裁判所が決めた報酬を本人の財産から受け取ることになる。(実は、親族が成年後見人になった場合でも、報酬は請求できるのだが、請求しない人が多いようだ。)

ならばせめて、選ばれた専門職にはきちんと本人のお金を管理してほしい。一般には、専門職というだけあって財産管理の識見があるし、成年後見制度の正しい使い方もよく知っているはずだ。また、専門職が他人のお金に手を付けたりすれば、資格を失うようなリスクがある。だから、実際に大多数はきちんとお金を管理してもらえる。

ところが、ごく一部には、成年後見人の権限を濫用して、本人のお金を着服してしまう専門職もいた。そういう専門職に当たってしまった本人と親族は、本当に気の毒というしかない。

そういった事件の報道が成年後見制度への信頼を傷つけてきたのも事実だ。

 

3 弁護士の成年後見保証制度ができた

 先行していた司法書士団体

成年後見というのは、専門職側から見ると、いわゆるプロボノ活動の一種で、あまり利益になる制度ではないという。専門職も民間の自営業の人々であり、普通に事件・案件を受けているほうが、事務所の経営には利益が大きい。しかし、国家資格の社会的使命感から成年後見人の候補者名簿に登録しているという人も多いようだ。特に、地方の弁護士・司法書士は、他に成り手がいない案件について、責任感から後見人を引き受けていることも多いらしい。

もっとも、それは専門職内部の事情であり、引き受けるからにはきちんとしてもらいたいし、その引受け体制を専門職団体で作っているのであれば、専門職団体の内部自治としても、そういった着服・横領の事件が起きないようにしてもらいたいというのが利用者の見方だろう。もっといえば、そういう事件が万一起きたときには、専門職団体で保証ないし損害の補填をしてもらえると心強そうだ。

そういった要望に早くから応えていたのが、司法書士の団体(公益社団法人成年後見センター・リーガルサポート)だ。成年後見制度における包括補償保険という枠組みで、登録司法書士の故意による財産侵害に対しても保険金が下りるようにしている。1名500万円まで、同一年度内2000万円までなどという限度があるが、その姿勢は評価に値するだろう。士業の損害賠償保険は通常、気を付けていてもやってしまうかもしれない過失により損害を与えた場合のものだ。故意による財産侵害の保険など、個々の誠実な司法書士からすれば、自分がやるはずがないことについて余計な保険料を負担するだけだからだ。

 

 弁護士団体も昨年に追随

他方、弁護士はというと、上記のような士業の損害賠償保険の理屈からなのか、最近まで、故意による財産侵害の保険制度を設けてこなかった。それはそれで理解はできるが、やはり利用者からみれば、信頼できる弁護士に当たるかどうかは運次第なのであり、保険でそのリスクをカバーしてほしいところだろう。

それで、弁護士の団体もついに作ったのが、弁護士成年後見人信用保証事業だ。

全国弁護士協同組合連合会(全弁協)が保証人となり、弁護士成年後見人の不正による損害賠償債務を保証し、着服・横領の被害者の被害を弁償してくれる。保証額は弁護士1名当たり3000万円を上限とし、被害者が複数いる場合は上限枠内で按分するという。全弁協は保険会社と保険契約を結び、保険金から保証債務を履行し、保険料は、成年後見人として名簿に登録する弁護士が拠出するという仕組みらしい。

2020年10月1日から保証が始まったという。

www.zenbenkyo.or.jp

リーガルサポートの制度も含め、個々の案件にどのように適用されるかや、制度の詳細は個別に調べてもらいたいが、利用者からみれば、良い制度が始まったといえそうだ。

どんな弁護士や司法書士が後見人に選ばれるかは分からないから、ごくわずかな確率が悪く的中してしまい、横領する専門職に当たってしまうかもしれない。横領するような専門職は、食っていくのに困っていることが多いだろうから、横領した人からお金を返してもらうのは期待薄だ。その場合でも、各制度ごとに上限額はあるが、一定程度の財産は結果的に守れるということである。

 

4 まとめ

現在、成年後見制度は、利用促進計画の推進段階であり、この2021年が5か年計画の最終年となる。利用しやすい制度となるよう、各自治体に、地域包括支援センターなどの制度運用の中核機関が設置され、市民後見人の育成や、本人のニーズにマッチした後見人の選任へ向けた活動、後見人の福祉的判断の支援などを進めているところだ。

今回の弁護士団体の保証制度のスタートが、成年後見制度をより利用しやすい制度とする一助となればいいなと思う。