刮目呂蒙のブログ

都内在住の30代男です。時事問題や生活改善情報から、自分の周りのことまで。たまに持病(潰瘍性大腸炎)のことも。

コロナで債務の返済が難しくなったらこれが使えるらしい

新型コロナの影響で、債務の返済が難しくなった人も少なくないだろう。

感染したこと自体のほか、コロナ感染の拡大で売上げが苦しくなった勤務先から解雇されたり、あるいは自分の事業が成り立たなくなったりと、直接間接の影響がありうる。

そんな個人が使える可能性がある制度運用が2020年10月から開始されている。今回はそれを紹介する。

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目次

1 はじめに

今回紹介する制度運用は、自然災害被災者債務整理ガイドラインのコロナ特則だ。

詳細はこちら。

www.dgl.or.jp

破産や民事再生などの裁判所の倒産手続とは違い、あくまで私的整理だ(簡易裁判所の特定調停は利用する。)。

私的整理のガイドラインだから債権者が遵守するかどうかは任意という建前だが、各金融機関のほか金融庁や日銀の担当者もオブザーバー参加して定めたそうで、金融機関は原則として遵守が求められる枠組みらしい。

その中身を大づかみに見ていこう。詳細は上記HPに記載があるほか、債権者向けには別途細かい決まりがあるようだ。

 

2 自然災害債務整理ガイドライン(コロナ特則)の概要とメリット

 対象者

対象者は個人。法人は対象外だ。

コロナの影響で債務整理を要するに至ったという必要があり、コロナ被害にかこつけてガイドラインを使おうとしてもダメ。

また、誠実に自分の情報を開示する必要があり、浪費等のいわゆる破産免責の不許可事由があると使えない。対象者はちゃんと弁済計画を守り、債権者に破産よりも結果的に回収できるようにする必要もある。

対象者の「誠実さ」はキーワードの一つといえそうだ。とはいえ、多少の無駄遣いがある人はいくらでもいるだろうから、自分の金銭の使い方が免責不許可事由に当たるとしてガイドライン利用が拒否されるのかどうか、下記のメインバンクや弁護士に正直に相談してみるといいだろう。必要があれば、手続の進行中に、弁護士から言われたとおりに節制した生活をし続け、その実績を示すようなこともあり得そうだ。

 

 対象債務

債務免除を受けられるのは金融機関の債務のみで、取引債務は含まれないのが原則だ。2020年2月1日以前の債務と、2月2日以後にコロナ融資として借りた債務が対象となる。すべての債務が清算の対象となる法的な破産とは違う。取引債務を巻き込まないのは、事業をしている個人の今後の経済的更生のためでもある。取引関係に傷をつけないようにする趣旨だろう。ただし、必要があれば取引債務もガイドラインの適用を受け得るようだ。

 

 弁護士の無料支援

利用可能であれば、無料で弁護士の支援が受けられるという。弁護士が何をしてくれるかというと、主に、弁済計画案の作成補助と、金融機関等との交渉ということになるようだ。おそらく、必要に応じて、財産流出を防ぐための管理監督や、計画案実行のための生活改善の指導などもあるだろう。通常の破産や個人再生の申立てに当たって弁護士を依頼するには一定の費用がかかるから、これもガイドライン利用のメリットになる。

 

 自由財産の拡張

このガイドラインを使う以上、破産の場合と同じように、手持ちの資産はお金に換えてできる限り債務の返済に充てるのが原則だが、99万円以下の現金と生活必需品等については返済に充てなくてよいいわゆる自由財産にすることができるという。これは法的な破産と同様で、個別の事情によっては、自由財産を拡張することができることも同様だ。

もっとも、ガイドラインを使えば、個人再生の場合の住宅資金特別条項のように、自宅の住宅ローン債務をカットしないで返済を続け、自宅を売らずに住み続けることも、弁済計画の内容によっては可能だという。法的な破産よりも柔軟性が高いといえそうだ。

 

 保証債務の免除

そして、このガイドライン利用の最大のメリットといえそうなのが、保証債務の免除だ。普通、法的な倒産手続の場合は、保証人の保証債務は免除されない。それどころか、こういうときのための保証だとばかりに、保証人からの債権回収が図られる。これでは保証人に迷惑がかかる。しかし、このガイドラインを使えば、保証人の保証債務も免除してもらえることになるようだ。これは、保証人に迷惑をかけたくない債務者にとって朗報だろう。ただしもちろん、それなりの弁済計画案が実行できることが前提になるとは思われるが。

 

 信用情報への不掲載

また、このガイドラインを利用して債務整理をしても、信用情報には掲載されないという。法的な破産手続等を利用すれば、信用情報への掲載は免れないので、その後当面はクレジットカードが作れないなどの事実上の不利益が生じ得るが、このガイドラインを使うことができれば、そうならないという。これも大きなメリットだろう。新型コロナの影響で支払能力がなくなるのは、本当に気の毒というしかなく、そのためにブラックリスト入りさせられるのはあんまりだという配慮だろうか。

 

 損金算入

逆に、債権者側のメリットとしては、このガイドラインに沿って債務免除をした場合にも、損金算入することができる点がある。簡単に言うと、債務免除した回収不能分が税務上費用つまり利益を減少させるものとして認められる結果、利益に掛かる法人税を安くできるということだ。主観的にみて回収不能にみえる債権であっても、租税負担の客観的公平性の観点から、ただちに回収不能分を免除してもその分を損金算入するのは難しいことがある。しかし、このガイドラインに沿って債務免除をした分については、法的な破産等により配当を得られなかった場合と同様に、損金算入をすることができるらしい。このメリットは、債権者側がこのガイドライン運用に同意する前提事項といっていいだろう。

 

 手続

さて、このガイドラインに基づく弁済計画案の債権者側による承認や、保証人を含めた債務免除の手続は、債務者本人、金融機関等の債権者、保証人等の関係当事者による、簡易裁判所での特定調停で、調停合意として行われ、容易に覆らない強い法的効力が与えられることになる。

この手続を利用したい個人は、まず一番お金を借りている金融機関(いわゆるメインバンク)に、「手続着手の申出」(この手続を使いたいんですがという申入れ)というのをして、その金融機関から同意書をもらう必要があるという。金融機関はこのガイドラインに沿って利用可能な個人かどうか簡易な方法でチェックし、問題がなければ同意することとされているようだ。そして、その同意書を、近くの弁護士会に提出すれば、登録している支援担当弁護士を紹介してもらえるという流れのようだ。あとは、その弁護士の指導助言に従ってやってみるとよいだろう。

 

3 おわりに

このような私的整理のガイドラインの充実は、社会的にみて大変好ましいものといえそうだ。破産や個人再生などに加えた選択肢の一つになる。

なお、ここに記載したのはあくまで運用例であり、事案によってさまざまな展開をたどることになるだろう。また、上記のサイト等の情報を集めて推測した部分もある。正確な情報や詳細を知るためには、上記サイトを自分で確認するほか、専門家に相談してほしいと思う。